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「主婦年金の縮小」が現役世代にもたらす〈負担増・支給減以外〉の副作用

残念ですが年金制度は破綻しました。「主婦年金の縮小」が現役世代にもたらす〈負担増・支給減以外〉の副作用

 

政府は決して認めませんが、日本の年金制度はすでに“破綻”しています。昨今、SNS等で「実質的な増税だ!」と大炎上している「主婦年金(第3号被保険者制度)」の縮小・廃止議論。パート主婦や専業主婦から新たに保険料を徴収する方針に、怒りや不安を覚える人も多いでしょう。しかし、この改悪がもたらす真の恐怖は、目先の負担増だけではありません。制度のツケを払わされる現役世代を待ち受ける、国を揺るがすほどの「トンデモない副作用」とは?(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博

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政府は認めないが
年金制度はもう破綻している

 与党の社会保障改革をめぐる協議で、主婦年金の優遇を縮小する方針を固めたことがSNS上で反感を集めています。

 議論されたのは年金の「第3号被保険者制度」の見直しです。この制度は専業主婦とパート主婦の優遇制度で、配偶者が会社員として厚生年金に入っている場合などでパート年収が130万円以下の場合は年金保険料を払わなくても、高齢者になった段階で基礎年金を受け取れるという制度です。

 議論としては優遇の対象者を縮小し、最終的には廃止する方向で検討をされているというのが冒頭のニュースです。決定ではないとはいえ財政状況を考えるとそうならざるをえないでしょう。

 仮にこの制度が完全に廃止されれば、専業主婦も毎月約1万7000円の国民年金を支払うことになります。年間約20万円の出費増ですが将来もらえる年金は今と同じです。

 議論の方向をみるとおそらく最初は完全廃止ではなく、厚生年金に入らざるをえないパート主婦が増える形への制度変更になりそうです。その場合でも自己負担は毎月約1万5000円程度になるでしょう。隠れた出費として雇用主も同額を出費するのですが、これは経済的には時給が増えない形でいずれ本人に跳ね返ってきます。

 SNS上でブチ切れる人が続出するのも共感できます。「20万円の増税と同じじゃないか」というわけです。しかも政府に狙われたのは現役世代の弱者層です。

 さて、怒りの感情はいったんしまっておいて、なぜこのような制度改革が議論されているのか?と、それが日本経済にどういう影響を及ぼすのか?を検討してみましょう。

 まず大前提として政府は決して認めないのですが、わが国の年金制度というのはすでに破綻しています。

 本来であれば働く世代が収めた年金保険料をきちんとプールして運用して、その長期間にわたる運用益を含めて引退世代の生活費として年金を配るのが年金制度のスジであるべきです。

 しかし日本の年金制度は、若者から集めた年金保険料をそのまま高齢者に分配する制度設計で始まってしまいました。

 年金制度が始まった頃は、若者の人口は圧倒的に多く、高齢者の平均寿命は60代でしたから、少ない年金保険料で大きな老後保障が得られたわけです。

 ところが現在では若者は人口的には少数派で、高齢者の平均寿命は80代です。この制度で辻褄があうはずがないのです。

 それで現在の年金制度では、基礎年金の不足分を税金で補填します。よく政府は「収めた年金保険料と将来もらえる年金を比べるとプラスですよ」と主張しますが、経済的には嘘があります。不足を補填する税金分が計算式からは抜けているからです。

 実際には若者世代は、年金保険料に加えて収めた所得税や消費税が高齢者の年金に補填されています。きちんと試算すれば年金は若者にとってマイナスな制度ですが、そこは政府がつまびらかにすることはありません。

 次に、この状態をカイゼンするにはどうすればいいでしょうか?政治家になったつもりで考えてみましょう。

負担増で支給減の現役世代が
引き受ける“トンデモない副作用”

 やれる「改革」はふたつあります。

 現役世代が支払う年金保険料を増額すること。そして高齢者世代がもらえる年金を減額することです。恐ろしいことに、これはふたつとも現在進行形でその方向に制度が進みつつあります。

 まず先に高齢者世代がもらえる年金を減額する手口から解説します。日本経済をインフレにすればいいのです。

 現在、国民年金に加入してきた高齢者は月額で約6万6000円の年金を受給しています。サラリーマンの場合、厚生年金で月15万円程度というのが平均的な高齢者の年金額です。

 どちらの場合も暮らしはぎりぎりという金額ですが、そこにインフレが起きています。日銀がターゲットにしているのは年率2%のインフレですが、その場合にインフレスライドで増える年金額は約1.6%に抑えられます。

 仮にいま35歳の若者が、年金を受け取れる30年後にどうなっているかというと、平均でインフレ2%、年金1.6%の増加ペースで老後を迎えた場合にはもらえる年金の価値は1割は少なくなる計算です。これが年金の実質的な支給額を減額する制度設計です。

 一方で現役世代が納める年金の増額は、これまで免除されてきたひとたちを対象に加える方法で実行されていきます。直近では月20時間以上働く従業員は、段階的にすべて厚生年金加入が義務付けられるようになりました。今回議論されている制度改革では働く時間に関係なく、収入に応じて年金加入が促される方向に進むでしょう。

 これはどちらも現役世代に不利になる形での制度です。それが現在進行形で進んでいると同時に、将来もっと悪くなる方向にしようという議論が与党の間でなされたというのが直近の報道です。

 では、わが国の年金制度がそもそも破綻していることを仮に政府が認めた場合は、他の改革方法はないのでしょうか。

 実はそれを公約に新しい大統領が当選して、チェーンソー改革と呼ばれる大ナタを振るっている国があります。南米のアルゼンチンです。

 アルゼンチンは政府の財政赤字が原因で、長年、ハイパーインフレが続いていました。2023年に大統領にえらばれたハビエル・ミレイ氏は社会保障費を大胆にぶった切る改革で、政府支出を削減しました。

 結果として起きたことはふたつで、ひとつはアルゼンチンのハイパーインフレは終息します。もうひとつは高齢者を中心に生活が破綻する国民が続出したことです。

 日本で同じことをやろうとしたら、たとえば高齢者の医療費の自己負担を1割から5割に引き上げるとか、税金による年金の補填を止めて基礎年金を半額にするといった改革になるでしょう。

 日本の場合はそれは絶対にできません。若者よりも高齢者の人数が圧倒的に多いので、政治家は高齢者優遇政策しか採用しないからです。

 ということで、結局のところ日本の政治がやれる改革は、現役世代の負担を増やしながら、制度のいびつな部分を部分的に削っていくような改革に限られます。

 ではこの方針は日本にとってプラスなのでしょうか?それともマイナスなのでしょうか?

 おそらく政府は短期的なプラスに注目して、主婦年金の改悪に踏み切ろうとしているのだと思われます。

 今回議論されている方向に年金制度が改革されると、働く弱者は労働時間を増やさざるをえないのです。パート主婦は月100時間以上働くようになり、専業主婦は生活を助けるために仕事を始めなければいけません。

 もうひとつの弱者層である65歳から74歳までの前期高齢者も働く時間を増やすことになります。こうして年金だけでは食べていけない層が働き、結果として年金を納める側にまわります。

 これは政府にとって一石二鳥です。産業界で不足する労働力が出現するうえに、年金制度も維持しやすくなるのですから。ここが議論に参加している政治家や官僚の着眼点でしょう。

 では長期的なデメリットは何でしょうか?ふたつあります。

 ひとつはいずれ現役世代にこのたくらみがばれることです。国民は政府が思っているほどはバカではないので、こういう複雑に仕掛けたつもりの罠についても早い速度でSNSで真実が広まってしまいます。

 するともうひとつのデメリットが顕在化します。国民が分断するのです。

 10年後の未来では今以上に政党の数が乱立するでしょう。与党が安定過半数をとれるのは今が最後でしょう。そして近未来の日本の政治は欧州と同じで、複数政党が連立して不安定な政権を担う構造へと変貌します。社会では不満をかかえたふたつ、ないしは3、4つの層が、お互いをののしる姿が繰り広げられます。

 与党としては今回、いい着眼点を発見したというところでしょうけれども、おそらく将来から振り返れば、現役世代から搾取を増やしていく政策が、国家を滅ぼす種まきになっていたことに遅れて気づかされるのではないでしょうか。くらばらくわばら。

参照元:https://diamond.jp/

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