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イラン情勢でアメリカンビーフ高騰、牛ひき肉価格が過去最高値に

米ノースカロライナ州のスーパーマーケットの棚に陳列された牛ひき肉製品(Shutterstock.com)

米国で最もメジャーなたんぱく源である牛ひき肉の価格がこれまでになく高騰している。ただでさえ肉用牛の飼育頭数が75年ぶり最低の水準に落ち込む中、燃料、肥料、飼料用トウモロコシの値上がりが相まって、牛ひき肉価格は1ポンド(約454g)あたり7.50ドル(約1200円)を超えそうな勢いだ。しかも、最悪の事態はまだ始まってすらいない。

 

全米の家庭で平日の夕食の定番食材となっている牛ひき肉は、消費者が想像するよりも長く複雑な道のりを経てキッチンの冷蔵庫に届いている。

すべては牧場で子牛が生まれるところから始まる。だが、その牧場はこれまでに干ばつ、山火事、洪水、さらには長年にわたる維持費の上昇を乗り越えてきている。無事生まれた子牛は肥育場へ移され、飼料を与えられて成長するが、飼料用のトウモロコシは窒素肥料を使って栽培され、ディーゼル動力機器で収穫され、ディーゼルトラックで輸送されてくる。成長した牛はいよいよ屠殺・加工されるが、その工場の稼働にもエネルギーを消費する。

加工されたひき肉は、おそらく石油由来のプラスチック包装で真空パックされ、ディーゼル駆動の冷蔵トラックに積み込まれて流通センターへ運ばれる。その後、トラックでスーパーマーケットへ運ばれ、開放型の多段冷蔵ケースに並べられるが、米環境保護庁によるとこの冷蔵ケースはスーパーマーケットの冷蔵設備が消費する総電力の40~60%を占めている。

 

買い物かごに入れられる牛ひき肉パックの値段には、エネルギーや飼料、石油製品のコストが上乗せされているのだ。現在、これら3つの要素すべてが一斉に、米国とイスラエルの対イラン軍事行動により歴史的な価格上昇圧力にさらされている。

イラン攻撃は、単にガソリン価格を急騰させただけではない。牛肉価格の爆発的な高騰の導火線に火をつけた。この価格爆発の影響が完全に表れるまでには半年から1年ほどかかるだろう。そして、米国の消費者はこれから起こる事態に対して全く準備ができていない。

 

2月28日に米国とイスラエルがイラン攻撃に踏み切る前から、米国産牛ひき肉はすでに過去最高値を記録していた。米労働統計局のデータによると、2026年2月の牛100%ひき肉の全米平均価格は1ポンドあたり6.74ドル(約1070円)に達し、1980年代の統計開始以来の最高値を更新。価格は2025年だけで22%上昇し、2020年以来の上昇率となっていた。

 

一方、米国における肉用牛の飼育頭数は2026年1月時点で8620万頭にまで減少し、75年ぶりの低水準を記録。2020年比で8.6%減少していた。

そこへ、ホルムズ海峡の事態が起きたのである。

右肩上がりの牛ひき肉価格

なぜ牛ひき肉がイラン情勢に伴う経済ショックの影響をこれほどまでに受けやすいのかを理解するには、まず米国の牛肉供給網が構造的にどれだけ崩壊しているかを知る必要がある。

 

米国では長期にわたる干ばつの影響が広がり、特に肉用牛の飼育頭数で全米トップ2のテキサス州とオクラホマ州では放牧地が枯れて、維持・再建が困難となった牧場の廃業が相次いだ。一方、肉用牛飼育頭数全米第4位のネブラスカ州では山火事で放牧地が被災。また、肉食の寄生虫である新世界ラセンウジバエの被害拡大を受けてメキシコからの牛の輸入が制限されたことで、肥育場の供給も逼迫している。こうしたさまざまな事情から肉用牛の飼育頭数は75年ぶりの低水準となり、牛肉のサプライチェーン(供給網)そのものが歴史的に逼迫した状況にある。

2020年1月には1ポンドあたり3.99ドルだった牛ひき肉の全米平均価格は、6年で69%も上昇し、そのグラフの曲線は右肩上がりを続けている。

米食品小売業界を分析して30年以上になる筆者は、商品市場の急変、供給の混乱、干ばつの周期、パンデミックによる供給途絶などを目撃してきた。しかし今、目の当たりにしているのは前例のない事態だ。かねてあった構造的な供給危機が、地政学的ショックと正面衝突し、牛肉の生産に必要なあらゆるコストを同時に押し上げている。燃料、肥料、飼料、包装、輸送──これらすべてが牛肉価格のさらなる高騰につながっているのだ。

これは単なる一時的な商品価格の乱高下ではない。構造的な要因が重なった結果だ。75年ぶり最悪の肉用牛の供給不足が2022年のロシアによるウクライナ侵攻以来最悪のエネルギー危機と重なり、3億3000万人の米国人の食卓に欠かせない食材に打撃を与えている。

4つのコスト上昇要因

イラン情勢が米国産牛ひき肉に与える影響には4つの明確なコスト要因があり、それぞれ異なるタイムラインで発生している。

 

・コスト上昇要因その1:輸送用燃料

牛肉の輸送は生牛の段階からすべてディーゼルトラックが担っている。2月の米ディーゼル燃料価格は1ガロン平均3.72ドル(約600円)だったが、3月16日には5.07ドル(約800円)に達し、前年比1.52ドルの急騰となった。これは米政府が1994年に価格調査を開始して以来最大の週間上昇幅である。

輸送費は牛肉の総コスト構造において大きな割合を占める。ディーゼル価格が30%上昇すれば、牛肉1ポンドあたりの店頭価格は約5~6セント(約8~9.5円)上がることになる。

・コスト上昇要因その2:牛肉の包装

牛ひき肉製品は、石油由来のポリスチレン製またはPET(ポリエチレンテレフタレート)製のトレー容器に収められ、石油由来のプラスチックフィルムで密封されている。樹脂価格は原油価格に対して4~6週間遅れで連動しており、イラン攻撃以来、原油価格は40%以上高騰している。包装費は店頭価格に牛肉1ポンドあたり約3~4セント(約5~6円)上乗せされる。

 

・コスト上昇要因その3:加工・冷蔵エネルギー

牛肉加工場は、冷蔵、設備、照明、給湯など、膨大な量のエネルギーを消費する。天然ガスも電気も原油価格とともに値上がりしており、公共料金の契約更新に伴って、さらに牛肉1ポンドあたり3~5セント(約5~8円)が上乗せされる。

・コスト上昇要因その4:飼料用トウモロコシ

実は、これが最大の不安材料だ。投入コストのうち最大を占め、影響が表れるのに最も時間がかかり、おそらく最も壊滅的な打撃をもたらすだろう。

飼料コストは、米国産牛肉1ポンドの総製造原価の約60~65%を占める。牛肉1ポンドの生産にはおよそ6~8ポンド(2.7~3.6kg)のトウモロコシが必要だ。トウモロコシ価格はまだ高騰していないが、今秋の作付け用資材はすでにイラン情勢を受けて危機的状況にある。

トウモロコシ生産において最も重要な投入資材は窒素肥料だが、イラン攻撃の影響は壊滅的だ。米肥料協会によると、最も一般的な窒素肥料である尿素の価格は、対イラン軍事作戦が始まってから1週間で30%も値上がりし、輸入拠点のニューオーリンズでは1トンあたり516~683ドル(約8万~11万円)を付けた。米コンサルティング会社トレーディング・エコノミクスは、3月中旬までに尿素価格は前年同月比で約60%上昇したと報告している。

また、米中西部のコーンベルトで農家が土壌に直接注入する無水アンモニア肥料の価格も、作戦開始の前後で1トンあたり850ドル(約13万5000円)から1050ドル(約16万7000円)へと上昇。前年同月比41%高くなった。

厳しい現実として、ペルシャ湾は世界でも最も安価な天然ガスの埋蔵地であり、これがアンモニア生産に不可欠な原料となっている。

 

カタール、サウジアラビア、イランの3カ国は世界の尿素輸出国トップ10に名を連ねるが、ホルムズ海峡は現在、事実上封鎖されている。世界最大の窒素輸出国である中国は、8月まで輸出を停止すると発表した。欧州はロシア産天然ガスの供給を失って以来、窒素生産を通常生産能力の4分の3の水準で維持している。世界的な窒素市場は、イラン攻撃前からすでに危うい綱渡り状態にあったのだ。

農業専門ニュース番組U.S. Farm Reportのアナリストは、現在の窒素価格では採算が合わないとしてトウモロコシ栽培に見切りをつける農家が出てくると分析。今春に100万~150万エーカーの農地が大豆に作付転換する可能性があると指摘する。これとは別に米農務省は開戦に先立ち、世界的な供給過剰と利益率の悪化により2026年のトウモロコシ作付面積は480万エーカー減少するとの予測を示していた

今春の肥料価格高騰がトウモロコシの作付面積減少や施肥量の削減につながり、秋の収穫量に影響すれば、トウモロコシ価格は上昇する。そして肉用牛の飼料コストも道連れとなる。

 

牛ひき肉の値段はいくらになる?

以上4つのコスト上昇要因を、現実的なシナリオにまとめてみよう。

2026年の米国人1人あたりの牛肉消費量は56.9ポンド(約25.8kg)と予測されている。対イラン軍事作戦の展開について最も中間的なシナリオの上限値を適用すると、米国人1人が年間に食べる牛ひき肉の購入価格は現在より31.84ドル(約5000円)高くなる。平均的な家庭(3.2人)なら年間約102ドル(1万6000円)の値上げだ。

大した金額ではないように思えるかもしれないが、2020年1月の牛ひき肉価格が1ポンドあたり3.99ドルだったことを思い出してほしい。つまり、6年前と比べて家庭の出費が年間602.68ドル(約9万6000円)増えることになるのだ。

しかも、値上がりするのは牛ひき肉だけではない。やはりトウモロコシを飼料とする鶏肉、豚肉、乳製品の価格も、同じコスト要因によって押し上げられるだろう。店頭のあらゆるたんぱく質食品が、牛肉と同じ運命をたどる。

その影響は、秋の感謝祭からクリスマス、新年にかけて牛肉需要がピークを迎えるホリデーシーズンに、米国の食卓を襲うだろう。

参照元:https://forbesjapan.com/

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