ウクライナ南東部ドニプロペトロウシク州で2026年2月22日、国産の迎撃ドローン「スティング」の飛行試験を行うウクライナ兵(Alex Nikitenko/Global Images Ukraine via Getty Images)
ウクライナの対ドローン技術への需要が急速に高まっている。大規模なドローン戦を何年も経験してきたウクライナは、イランで開発された「シャヘド」のような安価な片道攻撃ドローン(無人機)を阻止するシステムの開発で、世界有数の経験を持つ国になった。現在、ウクライナの戦線から遠く離れた国々が、その専門知識を活用したがっている。
ドローン自体に関心が集まりやすいが、より大きな価値があるのはむしろ、ウクライナがドローンを中心に構築してきた広範なシステム全体かもしれない。具体的に言えば、探知ネットワーク、指揮統制ソフトウェア、低コストの迎撃手段、そして絶え間ない攻撃下でこれらを運用してきた操縦士らの戦場経験だ。
湾岸諸国がウクライナの防衛技術を求める理由
ウクライナメディアのキーウ・インディペンデントは3月10日、湾岸諸国がイランによるドローン攻撃に対するより優れた防御方法を模索するなか、サウジアラビアはウクライナと大規模な武器取引に向けた交渉を進めていると報じた。その緊急性は火を見るより明らかだ。湾岸諸国はドローン攻撃の脅威に繰り返し見舞われる一方、高価な迎撃ミサイルの在庫の減少に懸念を募らせている。
ウクライナはハードウェア(装備)の輸出にとどまらず、関連するノウハウの供与にも乗り出している。英BBC放送は3月11日、イランのドローン脅威への対処を支援するため、ウクライナの軍事専門家がカタール、アラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアに派遣されたと報じた。外国からの関心が兵器そのもの以外にも広がっていることを示す動きだ。
ウクライナはドローン攻撃の発見や追跡、予測のために、レーダーや音響探知装置、指揮システムからなる比較的低コストなネットワークを整備してきた。ウクライナ向けの国際的な防衛技術支援団体「ディフェンス・テック・フォー・ユークレイン」の共同創設者で、ウクライナの外国人部隊(インターナショナル・リージョン)で戦った経験も持つカール・ラーソンは筆者の取材に、この広範な探知・調整アーキテクチャーは湾岸諸国にとって、迎撃ドローンと同じくらい価値があるものかもしれないと述べた。
米メディア、アクシオスの3月10日の報道によると、ウクライナ当局は昨年、低コストの迎撃ドローンや中東に「ドローン戦闘拠点」を設ける構想など、戦場で実証された対シャヘド技術に米国の関心を引こうとしたという。米欧州陸軍の司令官を務めたベン・ホッジス中将(退役)は筆者の取材に答え、西側諸国がウクライナからもっと速く学べていないのはより広範な問題を反映していると指摘した。「米国は組織的な慢心に陥っています。われわれは自分たちがいちばんよく知っていると思い込んでいるのです」とホッジスは苦言を呈し、「われわれは本来はウクライナから直接学ぶべきなのです」と続けた。
低コストと戦闘経験に強み
ウクライナの最大の強みのひとつはコストにある。ウクライナのドローン産業は、西側の多くの防衛企業よりも格段に低コストでシステムを生産できるのだ。ウクライナの非営利組織PRアーミーのアドボカシーマネジャー、マルク・サウチュークによれば、たとえばウクライナは長距離攻撃ドローンを20万ドル(約3200万円)程度で生産できるという。それに対して「西側の防衛企業が手がける同等のシステムは500万〜1000万ドル(約8億〜16億円)かかる可能性があります」(サウチューク)。
サウチュークは、ウクライナの優位性は「価格、規模、戦場で実証された品質」にあると説明する。また、ウクライナのシステムは設計から改良、実戦配備までが数カ月で行われる場合が多いのに対して、西側メーカーの場合、従来型の開発・調達サイクルを経るのに数年を要するかもしれない。
ウクライナの軍事メディア、ディフェンス・エクスプレスが2025年9月に伝えたところでは、ウクライナのドローンメーカーであるワイルド・ホーネッツは自社の迎撃ドローン「スティング」について、操縦士の経験やレーダーの設定によって差はあるものの、シャヘド型攻撃ドローンやおとり(デコイ)ドローンの「ゲルベラ」に対しておよそ60〜90%の有効率を達成していると説明している。同社によれば、スティングのコストは1機あたりわずか2000ドル(約32万円)強だという。
ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官は今年3月、フェイスブックへの投稿で、2月に首都キーウやその周辺で撃破されたシャヘドのうち7割超が迎撃ドローンによるものだったと明らかにした。こうした戦果に外国の買い手も注目している。
防空システムとしての経済性も魅力のひとつだ。中東の防空網の多くはパトリオット地対空ミサイルのような高価な迎撃弾に依存しており、1発あたり数百万ドルかかることもある。シャヘドによる攻撃に繰り返しさらされてきたウクライナは、群れで飛来するドローンに対処するため、迎撃ドローンをはじめとするより安価な対抗手段の開発・導入に駆り立てられてきた。
英国の地政学リスク専門コンサルティング会社、セントジェームズ・フォーリンポリシーのアリョーナ・フリウコ最高経営責任者(CEO)は筆者の取材に、迎撃ドローンが注目を集めているのは、従来の防空システムよりも格段に低いコストで大量のドローン攻撃を撃退できる可能性があるからだと述べた。
これは重要な点である。なぜなら防御側は往々にして、撃墜しようとするドローンよりもはるかに高価な迎撃手段に頼らざるを得ず、コスト面で不利な立場に置かれがちだからだ。ウクライナ向けの別の技術支援団体「テクノロジー・ユナイテッド・フォー・ユークレイン」のエンジニア、ハイナー・フィリップは「解決策は釣り合いのとれたものでなければなりません」と筆者に強調した。「1機1万ドル(約160万円)のおとり機を1発200万〜500万ドル(約3億2000万〜8億円)もするミサイルで撃ち落としているようでは、戦争に負けてしまうのです」
戦場のニーズから輸出のチャンスへ
イランのドローンは結果的にウクライナの能力の宣伝に一役買っているとも言える。「イランはウクライナのドローン技術の販促キャンペーンをしているようなものです」とPRアーミーのサウチュークは言う。「イランがドローンを広範に使用した結果、対ドローンシステムがいかに重要なものか実際にわかったからです」
ウクライナの問題は、国が依然として戦争状態にあるなかで輸出向けの需要が高まっていることだ。ウクライナ政府は2月、戦時下で初めて、国内の兵器メーカーに国外販売を認めるライセンスを付与した。これは重要な一歩になったものの、輸出制度はまだ発展途上なのが実情だ。
ロイター通信によると、ウクライナの防衛産業はいまでは1000社を超える企業で構成され、全体の年間生産能力は額にして550億ドル(約8兆7000億円)あまりに達する。外国からの受注は、一段の規模拡大に向けた重要な資金源になると考えられる。米カリフォルニア大学サンディエゴ校のブラニスラフ・スランチェフ教授(政治学)は「防衛産業への発注に資金を出せばすぐに効果が表れるでしょう」と筆者の取材にコメントした。
ロシアによる全面侵攻が始まって以降、ウクライナの防衛産業基盤は驚異的なペースで拡大してきた。ウクライナ国防相顧問のハンナ・フウォーズジャルはドイツで2月に開かれたミュンヘン安全保障会議で、生産能力はざっと50倍に増え、年間500億ドル(約8兆円)規模に達したと語った。ウクライナ軍が必要とする兵器の半分以上が、いまでは国内メーカーから供給されるようになっているとも説明した。
米紙ニューヨーク・タイムズの3月11日の報道によると、ウクライナのドローン産業は低コストの組み立て中心の段階から、より高度な自給体制へと移行しつつある。一部のメーカーは、中国製部品をほとんど、あるいはまったく使わないドローンを生産するようになっている。同紙は、ウクライナ企業2社が米国防総省から契約に向けたコンペティションに招かれたことも伝えている。これは、実戦で鍛えられたウクライナの生産能力と、米国の調達への関心が結びつき始めている兆しである。
元米軍司令官のホッジスは、この戦争はウクライナを現代の軍事技術の実験場に変えたと言う。「純粋に技術的な観点から言えば、ウクライナはほかに類を見ない実験の場になっています」。ホッジスはそのうえで、西側企業はウクライナ企業と提携し、ウクライナ国内に生産ラインを設け、ウクライナの防衛産業に直接投資すべきだとの考えを示した。
外国の買い手にとって、ウクライナはもはやたんに西側の軍事援助を受けるだけの国ではない。ウクライナは、大量のドローン攻撃に対して、より安価で迅速に、そしてより柔軟に適応できる解決策を生み出す、防衛分野のイノベーターになりつつある。そのため、ウクライナの技術に対する需要はいまでは自国の国境をはるかに越えて広がってきている。
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