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地政学的な緊張が高まったときには、普通、金(ゴールド)価格はたちまち急騰すると考えられる。戦争が起こり、市場がパニックに陥ると、投資家は安全資産に殺到する。その結果、金は急激に値上がりする──というわけだ。
これは実際、歴史的にみられてきた動きでもある。ところが、この2週間は逆の現象が起こっている。
中東での激しい交戦にもかかわらず、金価格は上昇の勢いを欠き、直近の高値からやや下落してさえいる。そこで疑問が生じる。なぜ金はいま、典型的な「安全資産」にみられるような値動きを見せていないのか。
答えは、原油、金利、そして米ドルと関係している。
石油ショックで動揺する市場
ペルシャ湾で船舶が攻撃され、世界の石油流通が深刻な混乱に見舞われたことを受けて、ブレント原油は3月12日、1バレル100ドルの大台を超えて取引を終えた。これは2022年以来のことだった。国際エネルギー機関(IEA)のリポートによると、今回の軍事衝突は石油市場で史上最大の供給混乱を引き起こしており、ホルムズ海峡を通る輸出は通常の水準から激減している。
これが非常にゆゆしい事態なのは、世界の石油海上輸送のおよそ4分の1がホルムズ海峡を通過するからだ。現在のように輸送量が急激に減少すると、エネルギー供給全体がほぼ即座に逼迫してしまう。
しかも、読者の多くもご承知のように、石油ショックがエネルギー分野だけにとどまることはめったにない。インフレ予想、金利、さらには為替市場などへ急速に波及していく。これは、まさにいま、わたしたちが目の当たりにしていることだ。
ガソリン以上に経済への影響が大きいディーゼル燃料
現在の紛争による経済面の影響の大半は、必ずしもガソリンに結びついたものではない。むしろディーゼル燃料(軽油)と関連している。
ディーゼル燃料は、貨物輸送から農業、建設、鉱業まで幅広い分野の動力源になっているからだ。アナリストらの推定によれば、ホルムズ海峡周辺での混乱の影響で、ディーゼル燃料の供給は1日あたりおよそ300万~400万バレル失われている可能性がある。これは世界全体の消費量の最大12%に相当する量だ。
ディーゼル燃料は経済全体に深く組み込まれているので、その価格が上昇すると、商品の輸送コストや食料の生産コストが押し上げられることになる。その結果、広範なインフレ圧力がエネルギー分野をはるかに超えて広がっていく。これは4年前、ロシアがウクライナ全面侵攻を始めた時にもみられた現象だ。
金利の上昇が金価格の重しに
債券市場も反応している。米連邦準備制度理事会(FRB)はこれまでの想定よりも長く高金利を続けざるを得なくなるとの見方が強まり、米国債利回りは上昇している。
このコラムでもいくどとなく説明してきたとおり、利回りの上昇は短期的には金にとって逆風になる。
ご存じのとおり金には利息もつかないし、配当も生まない。だから債券利回りが上昇すると、投資家は一時的に金保有への意欲を削がれることがある。また、金利上昇はドルを押し上げる傾向にあり、これも金価格の重しになる。
今回の武力紛争が始まって以来、起こっているのもそれだ。ドルが上昇する一方、金価格はじりじりと下落しており、伝統的に安全資産と目されてきた2つの資産は対照的な値動きになっている。
スタグフレーションのリスク
とはいえ、より広範なマクロ経済環境は、金の安全資産としての魅力をさらに増す方向に移りつつあると筆者はみている。
エネルギー価格が高止まりすれば、世界経済は成長の鈍化と持続的なインフレが同時に進む局面に直面する可能性がある。これは「スタグフレーション」の一般的な定義にあたる。
英調査会社オックスフォード・エコノミクスのリポートによると、同社のモデルでは、原油価格が2カ月にわたり1バレル140ドルを上回って推移した場合、世界の経済成長は停滞し、インフレ率は6%近くまで急上昇する可能性があることが示されたという。
付言しておくべきなのは、同社のアナリストらによればこれはあくまで最悪のシナリオであり、実際にそうなる確率は低いということだ。一方で、歴史的に見れば、この種の危機が、市場のボラティリティー(変動性)を高め、投資家に従来のポートフォリオ戦略の見直しを迫るような状況を生み出してきたのも確かだ。そして、こうした状況では実物資産、なかでも金は魅力的に映ると筆者は考えている。
米国の財政悪化に拍車がかかる懸念
もうひとつの重要な要因は米国の財政状況だ。
米国は、39兆ドル(約6200兆円)に迫る政府債務を抱えた状態でイランに対する攻撃に乗り出した。米議会の合同経済委員会によると過去1年、この額は1日70億ドル(約1兆1000億円)超のペースで拡大している。財政赤字も依然として巨額で、歳入に占める利払い費の割合は高まり続けている。
こうした財政状況が政策当局の柔軟性を制約するのは明らかだ。
イランに対する攻撃にかかっている費用も莫大だ。米国防総省の見積もりによると最初の1週間だけで110億ドル(約1兆7000億円)に達した。紛争がさらに激化したり長引いたりすれば、財政への圧力はますます高まるに違いない。
歴史的にも、債務の増大と地政学な不確実性が重なる時期には、最終的に金価格が押し上げられる方向に動いてきた。
金相場の軟調は一時的かもしれない
投資家にとって重要なのは、短期的な市場動向と長期的なファンダメンタルズ(基礎的条件)を区別することだと筆者は考える。
短期的には、原油価格の上昇が債券利回りとドルを押し上げ、それによって金に下押し圧力がかかっている。しかし、通常であれば金を支える基本的な要因は、なおしっかり残ったままだ。
この紛争が続き、インフレが高止まりし、財政圧力が強まっていけば、金の長期的な投資妙味はむしろ一段と高まるのではないか。
金が依然として1トロイオンス5100ドルを下回って取引されている(編集注:米国時間19日には一時4500ドル台まで下落した)現状を踏まえると、いまは買い増しの好機かもしれない。筆者はかねてポートフォリオの10%を金に配分することを推奨しており、内訳は金地金と優良な金鉱株に5%ずつ振り向けることを勧めている。定期的にリバランス(配分調整)するのも忘れないようにしたい。
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