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白石麻衣と橋本奈々未の「孤独兄弟」とその前日譚のペアPV

白石麻衣
白石麻衣

乃木坂46「個人PVという実験場」

第19回 音楽作品と個人PVとのリンク 1/4

■「孤独兄弟」とその前日譚

 本連載では2020年2月に、湯浅弘章が監督を務める映像作品にクローズアップし(https://taishu.jp/articles/-/72361)た。そのなかで、乃木坂46の9枚目シングル収録曲『無口なライオン』MVで制作されたドラマがその後、西野七瀬若月佑美の個人PV、ペアPVへと派生しながら物語を完結させるまでをみてきた(https://taishu.jp/articles/-/72362)。

 湯浅作品は特に、半ば楽曲から独立し、ドラマ作品としての発展に重点が置かれているが、このようにグループの楽曲と個人PVとをリンクさせる発想は、乃木坂46のフィルモグラフィーにおいて、さまざまに見て取ることができる。

 湯浅による『無口なライオン』シリーズと前後する時期、やはり楽曲からペアPVへと世界観を接続させる作品が他にも生まれている。池田一真が監督を務めた、8枚目シングル『気づいたら片想い』収録の『孤独兄弟』MVがそれである。

https://www.youtube.com/watch?v=iwWRGGsOXz4
(※「孤独兄弟」MV Short ver.)

 白石麻衣橋本奈々未のデュオによる同MVは、対立する不良グループとの衝突を軸にしたドラマ仕立ての作品であり、サビでは定型としての『ウエスト・サイド物語』的な意匠も織り込んだものになっている。二人のバディ関係が印象深いこのMVは、のちに11枚目シングル『命は美しい』に収録された白石・橋本のペアPVで再登場する。

https://www.youtube.com/watch?v=CU7wVB9a4vM
(※白石麻衣橋本奈々未ペアPV「孤独兄弟Legend」予告編)

 それぞれに孤独を生きてきた二人が出会い絆を育むまでの来歴、互いの着ているレザージャケットが『孤独兄弟』本編とは真逆になっていることを踏まえたエピソードなど、このペアPVでは『孤独兄弟』の前日譚的なドラマを描き、湯浅が『無口なライオン』でたどった道筋とは時系列的に逆のベクトルながら、やはり二者間の得難い関係性を立ち上げている。

 同時に、非行グループの典型的な造形など、一歩違えばコント的になりかねないモチーフをあくまでシリアスに留めるバランスにも、池田一真の個性がみえる。

■一人だけのための『制服のマネキン

 もっとも、池田はこれより以前にも、楽曲MVと個人PVをつなぐ連作を生み出している。

 4枚目シングル表題曲『制服のマネキン』MVは、それまで乃木坂46の表題楽曲になかったクールでシリアスなイメージを打ち出した転機の一作である。欅坂46サイレントマジョリティー』MVをはじめ、その後の池田の仕事にも連なるトーンが、デビュー初年度の乃木坂46作品においてもすでにうかがえる。

https://www.youtube.com/watch?v=98wrTHidYGU
(※「制服のマネキン」MV Short ver.)

 当時の選抜メンバーだけでなくアンダーメンバーも撮影に参加した同MVだが、学業のため不参加だった柏幸奈のみ、同席がかなわず作品に映っていない。続く5枚目シングル『君の名は希望』で柏の個人PVを担当した池田は、今度は彼女ただ一人のためにもう一度『制服のマネキン』を撮影する。

https://www.youtube.com/watch?v=BN_YhRlxK3E
(※柏幸奈個人PV「制服のマネキン」予告編)

 遅れを取り戻すかのように通学路を走り、学校内に駆け込む柏。やがてイントロが鳴り、かつてメンバーたちがMVを撮っていたあの体育館にたどり着くと、柏幸奈ソロバージョンの『制服のマネキン』が始まる。

 同曲のインストに合わせて一人パフォーマンスする柏を、MV本編よりもさらに多様なアングルから捉えてゆく。広い体育館で孤高のパフォーマンスをする柏を時に遠巻きにうかがうように、また時に圧倒的な主役として映し出しながら、独特の緊張感をもったこの個人PVは終幕を迎える。

 これはまた、学業との兼ね合いで限定的な活動となっていた彼女を確かにグループのなかに包摂し、『制服のマネキン』を間違いなくメンバー全員によって完結させるための、最後の1ピースであったともいえる。同個人PVは、それぞれのスピード、それぞれのベクトルで歩む彼女たちを、それでも象徴的な意味で一箇所に集約させる作品だった。

■遅れて合流する柏幸奈

 ちなみに、この個人PVが収められた『君の名は希望』の収録楽曲『13日の金曜日』MV(監督:山田篤宏)でも、柏は他メンバーと異なる立場で映像の大半を過ごし、やがて「遅れて合流する」役を担っている。

https://www.youtube.com/watch?v=NKx4pI7Ns5U
(※「13日の金曜日」MV Short ver.)

 フラッシュモブ風の趣向がとられた本MVでは、参加メンバーがゲリラ的に「仕掛ける」側に立つが、柏は一人、その現場に居合わせたギャラリーたちと同じ地平にいる。

 終盤、あるカメラが柏の主観を表現していることが明らかになり、その瞬間に柏はギャラリーから演者側へと引き上げられる。遅れてやってきた柏の登場で全メンバーが揃い、作品が完結する流れには、やはり『制服のマネキン』同様の包摂をうかがうことができる。

 このMVでは、柏の主観を表現したカットに先立って、柏の後ろ姿を捉えたカットがそれとなく忍ばされて伏線となっているが、さらにその観点からとらえるならば、冒頭のシーンですでに、柏の視点として解釈できるようなカットが挿入されてもいる。

 作り手側の真意は不明だが、トリッキーな趣向で見る者を煙に巻くスタイルを得意とする山田篤宏が監督を務めていることを踏まえれば、この一見爽快なMVに、幾重にも深読みをしてみたくなる。

 

 

参照元https://dailynewsonline.jp/